遺言執行者の業務範囲

遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言を執行するために必要な行為を行う人です。

民法1015条・1016条により、遺言執行者は相続人の代理人とみなされ、やむを得ない事由がない限り、第三者にその任務を行わせることができないことになっています。

遺言書によって定めることができるほか、定めがない場合には、相続人や受遺者などの利害関係人による請求によって、家庭裁判所が選任することがあります。

遺言者の死亡後に、遺言執行者の選任を請求できるのは、法定相続人、受遺者などの利害関係人に限られます。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条)。

そして、遺言執行に対する妨害行為は無効になります(民法1013条、大判昭和5.6.16)

 


遺言執行者の業務

遺言執行者の業務とは、遺言に基づき、目的財産を受遺者へ引き渡したり、相続財産のうちの不動産につき移転登記手続きを行ったり、預貯金の解約手続を行う、等になります。


  • 推定相続人の排除及びその取消(民法893条、894条2項)
  • 認知(民法781条2項)
  • 遺贈(民法964条)
  • 信託の設定(信託法3条2号)
  • 生命保険受取人の指定変更(保険法44条1項)
  • 一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)


遺言書に「相続させる」「与える」などと記載されている場合には、「相続」として取り扱われ、すでに相続開始時に所有権が移転されており、不動産登記法27条により相続人が単独で登記申請をすることができるため、「遺言の執行」とみる余地のある「執行業務」が存在しませんので、遺言執行者には何らの権利義務もありません。

 


なお、遺言書に「遺贈する」と記載されている場合には「遺贈」を実現するための「登記申請」などの執行業務が必要となります。


相続人が遺言の内容を無視して不動産の所有権名義を変更してしまうなど、遺言の実現が妨害される状態が出現した場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、その妨害を排除するため、不正な所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解されています。

この場合、遺言執行者が原告となって、相続人を訴えることになります。


また、相続人から、遺言無効を訴える裁判を起こされた場合、遺言執行者は被告となりますので、応訴する必要が生じます。



遺言執行者の業務範囲に関する判例

遺言執行者の業務範囲に関する主要な判例は、以下のとおりです。

最高裁 平成3年4月19日 判決
特定物を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は遺産分割方法を定めた遺言であって、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該特定物が当該相続人により承継される。

 

最高裁 平成7年1月24日判決
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により、甲が被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した場合には、甲が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではない。

 

最高裁 平成11年12月16日判決
登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法27 条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない・・・しかし甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、妨害を排除するため、所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできる。

 

最高裁 平成14年6月10日判決
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言によって不動産又は共同持分権を取得した者は、登記なくして第三者に対抗することができる。

 

東京地裁 平成24年1月25日判決
預貯金債権について相続させる遺言がされた場合、その遺言の実現のためには、受益相続人に名義を変更する、又は受益相続人に払戻金を取得させることが不可欠になるところ、遺言の受益相続人は直接金融機関に払戻請求をすることが可能である。
しかし、金融機関において遺言書がある場合の払戻請求については相続人全員の承諾などを証する書面や印鑑証明の提出を求める取扱いをしているため、全員の協力がなければ遺言の実現が妨げられることになりかねない。
したがって、上記遺言のような場合の預金払戻も「遺言の執行に必要な行為」にあたる。

 


遺言に関する基礎知識

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